極上な恋をセンパイと。

ギョッとして、顔を上げた。

でも……センパイはさっきと同じ。
涼しげな横顔を崩さずに、ただ前を見据えている。


でも……手は……。



「……っ……」

「……」



確かめるように、親指が手の甲をさする。
ゆっくりと、丁寧に……。


こ、こんなに人がいる所で……。

周りの人に、激しく鼓動を刻む心臓の音が聴かれちゃいそうで、思わずギュッと目を閉じた。


胃の浮くような感覚がして、エレベーターが止まる。
扉が開くと同時にたくさんの人が吐き出されていく。

それと同時に、右手も解放された。


甘く、それでいて強引にあたしの手を掴んでいたセンパイは、呆気なく他の人と降りてしまった。



な、な……。




「~、~……意地悪」


振り回されてる事が悔しくて、思わずその背中に呟くと、扉が閉まる一瞬だけアーモンドの瞳があたしを捕えた気がした。


くやしい。



―――細い細い、今にも切れてしまいそうな危うい糸。


あたしはその上で、落ちないようにとなんとか立っている。
向こう側には、慌てるあたしを可笑しそうに眺めるセンパイがいて。



……そんな構図を、思い浮かべてしまった。
< 130 / 243 >

この作品をシェア

pagetop