ぶたねこ“ハッピー”の冒険
「くろ猫仮面という、一見正義か悪か判りづらい主人公が、社会の巨悪を暴いていく話なの。」

「この探偵みたいな人は?」

「あっ、それは探偵さんよ。そして猫のルナ。」

「探偵はくろ猫仮面のことを怪しがって追い掛けるの、くろ猫仮面にとってみれば、うざくてしょうがない存在ね。誰にでも多かれ少なかれ、似たようなことあるでしょう!」

「えっ、まぁ…。」

ギクッとしたように答えるオレを見て、YUIは笑いを堪えてる。

「あと、この劇の原作はこの町の人が書いてるんですよ。」

へぇ〜と聞きながら、あのおやじさんも原作を読んでたんだなと思った。

「なるほど、ありがとうございます。」

そう言ったところで、サラダが出来上がったようで、店員さんはカウンターの方に呼ばれた。

「ねえ、初めてデートした時、ここに連れて来てくれたよね。」

「えっ、ああよく覚えてたね。その時も海の幸スパゲティー頼んでたかな?」

この店では別のメニューを頼んだ記憶がない。

海の幸スパゲティー以外、ぱっとしない訳じゃなく、この店の海の幸スパゲティーは、イカもエビもプリップリで、皿の周りにソースのように盛り付けてあるマグロのタタキときたら、口溶けのとろける感じと、甘味なんて言葉にならないくらいだ。

だからここへは海の幸スパゲティーを食べに来るといってもいいくらい。

YUIもお気に入り、多分横から摘むことだろう。

こうしていると、一瞬時間が止まったような気がする。

オレもYUIも別れてなくて、この店にいて、パスタをつついて…。

なんか不思議な感覚だ。
夏の終わりに人の少なくなった浜辺にいる時の、おいてきぼりっぽい感覚というか…。

『それとは違うだろ!』

「えっ?」

誰かの声がした、いや、頭の中に直接聞こえたような感じだ。
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