ぶたねこ“ハッピー”の冒険

判決の日

朝の渋谷に向かうバスは、重い空気が漂ってる気がした。

これから1日が始まるというのに、まるで活気が無い。

卒業して就職すれば、オレもこんなになんのかな…、いや、なんないさ、だって…って、そう考えてる自分が既に終わってる気がしてきた。

しかも、ハッピーなデートじゃなく、婦人科の付き添い、100年前から終わってる。

『次は終点、渋谷駅です。どなた様もお疲れ様でした。』バスのアナウンスは、なんて親切で優しいんだ。
無口で無表情なアンドロイド達を運んできて、お疲れ様でしたなんて…。

そのうち、各家庭からドアを出ると長い動く歩道に立って仕事場まで向かってるかもな…。ベルトコンベアでロボットが並んで動くみたいにな。

モアイ像の前に着いたが、YUIはまだ来てない。

自販機でコーヒーでも買おうとしてる時、メールが届いた。

『ごめん、今日は行けません。生理がきちゃった、ありがとう。』

なんだよこのメール、変な文。でも、まあよかった。YUIも慌てたにちがいない。

オレは、おめでとう と返事を送った。

さてと、帰るのもだるいし、ミーティングまでもずいぶんある。どうしよう。

そう考えながらぶらぶらしてると、見覚えある後ろ姿。

あの絵かきおやじだ。

ベストにハンチング、それに何やら大きな袋を下げてる。

どうやら電車に乗るらしいな、やること無いし、ちょっとついてってみるか。

大きな袋下げてる割りに、人込みをするすると交わすようにおやじは歩く。

電車の6両目に乗り、連結部付近に滑り込む。

オレはドアの側に立ち、揉みくちゃなりながら、おやじの様子を見た。

連結部は人も少ないせいか、おやじは涼しい表情だ。
『にゃ〜ん』

ガタンゴトンとうるさい音に混じって、確かに猫の声が聞こえた。乗客の何人かもキョロキョロしている。
あの袋の中、もしかしてぶた猫か?
まさかな、あんなでっかい猫だと、10キロは超えるはずだ。さすがに持てないだろう…。

そうこうするうち次は新宿、おやじは降りるらしい。
オレは先に出て、キオスクでガムを買っておやじをやり過ごす。
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