ハッピー☆ハネムーン
「そうなんだ。新婚さんとは知らずに…… 本当にごめんなさい。あたしすっごく失礼だったね? あ…えーと…」
「葵です。一ノ瀬葵」
「葵ちゃんか…。かわいい名前ね。 旦那様は?」
「慶介です」
「あたしは昌(アキラ)。あたしも旅行中なんだよね。…あなた達とは正反対だけど。ま、傷心旅って感じかな」
そう言って、昌さんはグラスの中身を飲み干した。
ようやく彼女…昌さんの名前がわかってあたし達は静かにカウンターに向かっている。
もちろん、真ん中はあたし。
「あ。ピアノだけどね?小さい頃からずっとやらされてて…最近までは大嫌いだったんだけど……こうして各国ピアノ弾いて回ってるの。これでも意外と褒めてくれる人多くて」
「すごく素敵でした」
あたしは「そうかな?」と頬をほんのりピンク色に染めて笑う彼女を見ながら、あの昌さんを思い返していた。
――うん。
ギャップはあるけど…やっぱり昌さんはすごく魅力的だ。
時間は、深夜0時を回ろうとしていた。
ハワイでは、24時間営業しているところは少ないらしい。
このお店も、あと30分程で閉めてしまう。
客が少なくなってきた店内では、ハワイアンミュージックの中に波の音が微かに聞こえた。
開放的な店のすぐ傍は、ワイキキビーチ。
「今日は月が綺麗」
月の明かりで浮かび上がった水平線をぼんやり眺めて、昌さんは小さく呟いた。
その横顔はやっぱり綺麗で…
彼女になにがあったのか、ほんの少し気になった。
そっと慶介を見上げると、昌さんの視線を追うように静かな海を見つめていた。