ハッピー☆ハネムーン

勢い良く昌さんの肩を掴んで、力づくで彼女を振り向かせた。


「……」




――ドキン


その表情を見て、あたしは月島さんに最後の別れを告げる時の彼女の表情を思い出した。




「……何笑ってんだよ? なんで平気なふりするんだ。 頼むから……笑わないで」




そう言って、アツシ君は昌さんの細い肩からそっと手を離した。

一瞬驚いたように目を見開いた彼女は、その大きな瞳にほんの少し涙を浮かべて頬を緩ませた。



背の高いアツシ君の胸に、コツンと自分の顔を埋める昌さん。



「……なによ。 アツシのくせに」



風に乗って聞こえて来た昌さんの声は、アツシ君にも届いただろうか。





アツシ君の大きな腕の中でまるで子供のように泣きじゃくる昌さんを見ていたら、不本意かもしれないけど。

心の中があったかくなったんだ。


強がりの笑顔を見抜けたのは――…
アツシ君だから、だね。







あの時―――…


月島さんは、どうして昌さんの前から姿を消さなければならなかったか。

その答えを教えてくれたそうだ。


彼なりの償い――だったのかもしれない。



昌さんとの結婚2ヶ月前。
前に付き合っていた彼女が妊娠している事が判明したんだ。

月島さんの勤めている会社の社長令嬢が元カノだった。

それに加えて、会社から圧力がかかってしまって、月島さんも責任を感じて彼女との結婚を決意。
時間を作って昌さんにも会おうとしたんだけど、出来ずにこれだけの歳月が過ぎてしまったようだ。


「笑っちゃうでしょ? 嫌味の1つでも言われたらぶん殴ってやろうと思ってたのに」


そう言って眉を下げて笑った昌さん。
「ほんとに昔から変わんないよ、そうゆうとこ」と言ってまた涙を流した。







この世界で、たった一人でも。

自分の事を想ってくれている人がいるなら。

あたしは、何があっても大丈夫。

きっと乗り越えていける。




昌さんも、そうであってほしいな……






あたしは。

強く、強く願ったんだ。



< 78 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop