ショートショートの林
「神秘のツッコミ」
ある日、若手人気お笑いコンビ、「山田くんと鈴木さん」のツッコミ担当、山田太郎の夢枕に神様が立った

「なんでも願いを一つかなえてやろう」

夢うつつで山田はこう言った

「超能力をくれ」

神は言った

「わかった。ただし与えられるのはたった一つの能力だ、それは……」

そこで目が覚めた。何だ夢か。いや、そりゃあ夢だろうとも。そう思いながらも一応部屋じゅうの物に向かって念じてみる

「うごけー!飛べー!消えろー!……って、んなわけねーな」

何も動かないし、透けないし、飛ばない。

「あたりまえか、バカだな俺も」

自嘲気味に笑って時計を見る

「しまった!!遅刻する!」

山田は跳ね起きて今日のライブの会場に向かう。

舞台袖についた時には出番の直前だった。

「何やってんだ太郎!ギリギリじゃねーか!携帯もつながらないし!」

相方の鈴木はカンカンである。

「まぁ、間に合ったんだし、勘弁な?」

「リハの時間はないからな!昨日念入りにネタ合わせしてなきゃぶん殴ってるところだ」

「だ、大丈夫だって。あれだけ練習したんだし……ほら、出番だぜ」

深呼吸をして二人は舞台へ駆け出す。

「「どーもー!」」

「それにしてもあれですな、最近のお客さんは目が肥えている……」


山田は知らなかった



「そうやねぇ。まあ実際こう客席を見てみると……」



あれが夢ではなかったことを



「肥えてるのは目だけじゃ……」



神から与えられた能力が



「やかましわ!」



『手で叩いた物を消す』能力であったことを



バシッ


(よし!いいテンポだ!)

客の反応がない

相方の方を見る山田、しかしそこに鈴木の姿はない。

「な、な、な!?」

山田は動転した。それはそうだろう。0.2秒前まで隣にいた相方が消えているのだ。

客はざわめき、舞台袖ではスタッフが呆然としている。


そうか、これは夢だ、まだあの夢の続きをみているんだ!今日のライブが心配でこんな夢を見てるんだ!起きろ俺!ほんとに遅刻するぞ!

そう考えた山田は

自分の頬を





ぱしん

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