氷の女王に愛の手を
男子SP
フィギュアスケート男子ショートプログラム。
日本では男子フィギュアの人気は女子に比べて高くないが、フィギュア大国であるアメリカでは、むしろ男子の方が人気があると言っていい。
女子にはないダイナミックな演技が、アメリカ人にはうけるのだろう。
六分間練習を終えて会場のバックヤード。ショートの使用曲であるラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』を聞きながら、タクは柔軟を行っている。
昨日までの強張った表情はなく、どこか穏やかな様子だ。
良い傾向だ。これでいい。
GPシリーズの大会は、ISUランキングが低い順から滑走する。
タクは十番滑走。設置されている会場のテレビ画面を確認すると、今八番滑走の選手が滑り終わり、九番滑走者がリンクに入ったところだった。
そろそろリンクサイドに行かないと。
「行くぞ」
壁に右足を立て掛けてI字のポーズを取っているタクに声をかける。