月影
そのままホテルに一泊し、ドライブしながら地元まで戻ったのはお昼を過ぎた頃だった。


デートをしようと思えば出来たのだろうし、その時間も少しはあったのだろうけど、結局あたし達は食事程度しかしていない。


やはりどうしても、あたしはシュウと同姓同名の遺体の置かれた町ではしゃぐことは出来なかったし、早く知らない場所から離れたい気持ちもあったのだろう。


地元に戻ればまたジルと距離を取らなきゃならないことくらい、わかってるのに。



「大丈夫か?」


「大丈夫だよ。
それより、さっきから携帯鳴ってる。」


そう、彼のポケットを指差せば、ジルは幾分肩を落として見せた。


少しばかり春らしくなった陽に照らされて、やはり昼間が似合わない男と車だな、と思ってしまう。



「今日くらい、同伴してやれりゃ良かったんだけど。」


「仕事でしょ?
お金使うなら、その前にしっかり稼がなきゃだよ。」


「今日、時間作れたら店に顔出してやるよ。
無理だったとしても、終わる頃にはお前に会えるようにするから。」


「ははっ、必死っぽい。
じゃあ、期待しないで待ってるよ。」


「悪ぃな。」


ジルの携帯を鳴らす相手が、仕事の人なのか、それとも女なのかはわからなかった。


それでも昨日のことを心配してか、ジルはあたしのことを気にするばかり。


そんな優しさが嬉しくて、だからあたしはそれだけで十分だと思った。

< 109 / 403 >

この作品をシェア

pagetop