月影
「あ、ブルガリはダメですよ?
高いから、お客さんか彼氏さんに買ってもらってくださいね?」


瞬間、何も飲んでないのブッと噴き出しそうになり、思わず咳き込んだ。


何を言われているのかと思えば、サキちゃんはあたしの左手首を指差して、「それ!」と言う。



「レナさんってあからさまなブランドらしいの嫌うくせに、唯一それだけはつけてるじゃないですか?
だから、ブルガリ好きなんだろうなぁ、と思って。」


「…いや、別に、これは…」


思わず隠すようにジルがくれたブレスを右手でさすったのだが、葵もまた、うんうん頷いている。


まぁ、毎日肌身離さずつけてりゃ、そりゃ誰だってそう思うのかもしれないけれど。



「あ、プレゼントだぁ!」


思いつたように言った悪気のないサキちゃんの言葉に、あたしは口元を引き攣らせた。


何でこう、思い出したくない時ばかり、そんな話をされるのだろう。



「誰から貰ったんですか?」


「幽霊男。」


「……へ?」


てか、あたしの誕生日の話はどこに行ったんだろう、とは思うんだけど。


不貞腐れたようにそう言ってやれば、ポカンとした彼女は首を傾けた。



「でも、男なんだぁ?」


横から笑って口を挟んだ葵は、鬼の首取ったように顔を覗き込んでくるし。


仕方なく無視を決め込むように携帯を開き、いつものように営業メールの作成を開始した。


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