月影

恋人ごっこ

あれから数日後、あたしはジルに呼び出され、またホテルでセックスをした。


2回目のセックスで、自分自身のドM疑惑に拍車が掛かったような気がするけど。


冷たくすれば冷たく返され、甘えれば受け入れてくれるってゆーか、やっぱり捉えどころのない男だと思わされる。


キスはしなかったけど、それでもたまに見せるような柔らかい顔は嫌いじゃなかった。


ただのセフレなのかもしれないし、恋人ごっこのようなものなのかもしれないけれど、互いに心の中にあたたかいものを求めているような気さえしたのだ。


あたしはジルの、携帯の番号しか知らない。


他に知っていることと言えば、車と、あとは映画が好き、ってくらいのものだ。


取り留めて共通の会話もないけど、仕事柄込み入ったことは聞かないし、それでも関係が成り立っているから不思議だった。



「ねぇ、シュウは見つかった?」


「あんな写真一枚じゃ、どうしようもねぇって。」


だよねぇ、と思ってしまう。


あの日の帰り際、あたしの家まで送ってもらったついでに、シュウの写真を渡したんだけど。



「つか、マジでこの街に居んのかよ?」


「…知らない街に行く勇気はないと思う、けど。」


「お前の勘なんて、アテに出来るのかねぇ。」


失礼な男だな、とは思ったけど、でも実際、その通りなのだ。


例えこの街の隅々まで探したとしても、シュウが居る可能性なんてあたしの爪の先程度しかないけど、それでもとてもじゃないが、世界中なんて探せないし。


米粒ひとつを探すようなもの、とはよく言ったもので、まさにあたしは、その通りのことをしようとしているのだから。



「つか、他に情報はねぇのかよ?
普通、探すんだったら友達とか親兄弟の話を元にしてさぁ。」


「ごめん、それ以上はまだ言えない。」


「早く探したいんじゃねぇの?」


「…そうだ、けど…」


この一年半、自分が思う以上に作りモノの自分自身に馴染み過ぎていたのかもしれない。


思わず言葉を濁してしまえば、彼は諦めるようにため息だけを混じらせた。

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