月影

海色の輝き

じゅーくとハタチの違いが何もなかったように、あたしの生活もまた、何も変わりはしなかった。


相変わらず左手首にはブルガリのブレスが輝いているし、拓真とご飯だって食べに行く。


女の人と歩くジルを見掛けることもあるし、女の人と一緒のギンちゃんに話し掛けられることもある。


ちなみにシュウもまた、相変わらず見つからないままだ。



「レナ、つまみは?」


「そこの棚にあるよ。」


ジルとの関係もまた、何も変わりはしなかった。


たまに連絡が来ては、家に呼ばれたり、彼が家に来たり。


一緒にあたしの作ったご飯を食べて、セックスして、眠る。


苦しいことですら、もう生活の一部なのかもしれない。



「おっ、柿ピー買ってあんじゃん。」


我が家の棚を漁るジルを見つめながら、オヤジ嗜好だな、と思った。



「ジルってさぁ、そんなのばっか食べてるから、ご飯食べられなくなるんだよ。」


「お前、普通の母親みたいなこと言うなよ。」


普通じゃない母親ってのはどんなのだろう、なんてことは聞いたりしない。



「栄養考えろ、って言ってんの。
そんなの食べるばっかで死んじゃったら、みんなに笑われるよ?」


「…それは嫌だな。」


変なところでプライドの高い男だな、といつも思う。


生きる気力も乏しいふたりがこんな会話をしているなんて、人が聞いたら笑うのかもしれない。


それでも、あたしの生きる意味は、ジルを生かすこと。


どんな方法でも、死ぬことが出来たら彼は、花穂サンのところに行けて喜ぶのだろうか。


それとも、あたしと会えなくなって寂しがるのだろうか、なんて答えの出ない疑問符ばかりを振り払う。

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