月影
一分たらずだったのかもしれないし、一時間以上だったのかもしれないけれど、通りに見慣れたジルの車が止まり、あたしはおぼつかない足取りのままにそれへと乗り込んだ。


久しぶりの再会にも喜べる空気では決してなく、車内で彼は、人目もはばからずにあたしを抱き締めてくれた。



「弟んとこ、行くぞ。」


耳に触れた言葉にやっぱり緊張が走り、あたしは身を固くしてしまう。


それでも彼はあたしの頭を一撫でし、大丈夫だから、と言った。



「死ぬなんて決まってねぇだろ。」


また涙が溢れたが、彼はすぐに車を走らせた。


ジルの仕事のことが気にならないわけではなかったけど、それでも今のあたしの頭の中には、シュウの心配しかなかった。


何よりジルは、こんな時のあたしとは必ず一緒に居てくれるんだという、安堵感もあったのかもしれない。


ただ、それでも、現実は怖かった。


もしかしたらジルも怖いのかもしれない、先ほどから彼は、煙草ばかり吸っている。


共に繋いだ手は冷たくて、思えばジルはいつも、あたしが不安になると冷たい手を繋いでくれるのだ。


メーターなんて見なくても、車が猛スピードなのはわかった。



「ごめん。」


「何でお前が謝んの?」


呟くことしか出来なかったけど、ジルのそんな言葉に、少しだけ安心させられたのかもしれない。

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