月影
第五章-愁傷-

疑惑と痛み

シュウの四十九日は、親族のみでしめやかに執り行われた。


体裁を気にする両親に出席するように言われ、もう会うこともないと思っていた彼らと顔を合わせた。


けど、あたしは法要には参加させてもらえず、別室に待機させられることとなったのだ。


曰く、娘が水商売だなんて知られたら困る、らしい。


じゃあ、何で呼んだんだよ、って感じだけど、シュウが寂しがってる気がして、ただ来ただけのこと。


あの子が居なくなった心の穴は、まだ塞がってはいないのだ。



「愛里。」


お父さんが部屋へと入って来て、そしてあたしの名前を呼び、向かいへと腰を降ろす。


答えず今日も雨のけぶる窓の外へと視線を移すと、彼はあからさまにため息を混じらせながら、ネクタイを緩めた。



「お父さんの古くからの友人が、小さいながら会社をしているんだ。
そこに口をきいてやるから。」


だから、その人のところに就職しろ、とでも言いたいらしい。


そんなことのために呼ばれたのか、と思いながら、「嫌だ。」とだけ返した。



「あたしのこともさ、もう死んだと思ってくれて良いよ。」


自嘲気味に言うと、向かい合う彼は立ち上がり、こちらへと歩み寄り、平手を振り上げた。


その瞬間、バチンと乾いた音が響き、あたしは頬を張られる形になったのだ。


痛みと憤りで唇を噛み締め、睨み返すと、お父さんは「ふざけるな!」と声を荒げる。



「就職が嫌なら、大学に行け。
今からでも予備校に申し込みは出来る。」


「は?」


「シュウもきっとそれを望んでる。」


吐き捨て、そして彼はきびすを返した。


あたしは震える拳を握り締め、悔しさを押し殺すことしか出来ないまま。

< 250 / 403 >

この作品をシェア

pagetop