月影

去りゆく涙

ある日のこと、携帯が鳴り、ディスプレイには“店長”と表示されていた。


急に出勤してくれと言われることはたまにあり、少し嫌になりながらも通話ボタンに親指を乗せる。



『レナ!
そこに葵居るか?』


「は?」


電話口から聞こえたのは、彼の少し焦った声色。


思わず眉を寄せると、店長は『無断欠勤してんだ。』と言った。



「葵が無断欠勤なんかしたことないよね?」


『だから心配してんだよ。
悪いけど、葵の家まで行って確かめてくれるか?』


無断欠勤は、ペナルティーだ。


何があっても休まなかった彼女がそんなことをするなんて思えないし、嫌な予感がする。



「良いけど。
でも、あたしが行ったって出る保証はないよ。」


『それでも、居ることだけでもわかれば良いから。』


そう言われ、電話を切った。


こんなの、店長じゃなくたって心配になる。


蘭サンとの一件以来、葵と話すことはなくなったけど、今はそんな場合じゃないんだろうと身支度もそこそこに家を出た。

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