月影
第三章-歪み-

突然の凶報

暦の上では、もう春と呼ばれるのかもしれない。


それでも寒いことだけが、唯一の救いなのかもしれないけれど。


暖かくなればもう、本当にジルは、あたしを必要とはしないのかもしれないのだから。


あたしの働く“アイズ”は、決して大きな店ではないけれど、繁盛店だとは思う。


忙しさに救われ、忙しさに悲しくさせられるよ。


本当は、こんなことを望んでいたはずじゃない、ってのに。







刹那、本当に突然だったろう。


あたしの携帯のマナーが振動し、そこには“ジル”の文字が浮かび上がっていたのだから。


見間違いなのかと思ったし、そんなはずはないとも思った。


だってあの人は、あたしの出勤時間と寝てる時間は何故だか把握していて、絶対にその時間帯に電話なんてしてこなかったのだから。


元々頻繁に連絡を取るような間柄でもないし、だから余計に驚いたのだ。


半信半疑だったけど、出る以外の選択はなかった。


多分焦りすら顔に出ていたのだろうけど、あたしは急ぎ席を立ち、待機室に掛け込んだ。



『…レナ?』


耳を震わす声色は、一体どれくらいぶりだろう。


心臓の鼓動なんて向こうに聞こえるはずもないのに、無意識のうちにそんなくだらないことを気にしてしまう。


だけども彼は、次には低く呟いた。



『落ち着いて聞け。』

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