波の音がずっと聞こえてる
なつかしい、潮風。
わたしは思い出す。
風の温度、肌触り、
風のにおい。
髪がなびく、
あの感じ。
胸にすいこむと、
息がつまりそうな、
海の空気。

携帯電話を
耳に当てたまま
まるで幻聴のように
聞いている。

でも、はっきりとした
記憶の中と同じ
あの浜辺の音を
聞いている。

わたしは心があせる。
急がなくちゃ、と思う。
わたしの足は勝手に動く。
むやみに部屋の中を歩いてる。
そして、
無意識に、
足が向かっている、
いつのまにか、
家の外にいることに気づくのだ。

わたしは、
海へ向かって歩いてる。
部屋を出て、
外へ向かって、
海の見えないこの町から、
すこしでも、
海岸線へ近づくように、
わたしは歩き出す。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop