【詩集】水のない海を泳ぐように

小さな種だった花田さん

踏まれたって割れることなく
強風に吹き飛ばされることなく

小さな芽を出しました


小さな芽だった花田さん

不思議なことに花田さんは
奇妙な虹色をしていました

自分が他と違うと知って
花田さんは花畑の隅っこに隠れるようになりました


雨の日が好きな花田さん

雨の簾が芽の虹色を滲ませてくれるから

他の花たちが雨を飲んでいる間

花田さんはちょっとだけ涙を流していました


みんなのように鮮やかな緑の芽でありたい

どうして自分だけ異なるのか

花田さんは芽を地面にぶつけて傷つけます


何度も何度も傷つけて

百度目の一回前で気づいたのでした


「この芽は生きたがっている」


百度目は地面に突っ伏して
声が枯れるまで泣きました


虹色の芽をした花田さん

幸せを演じることにしました


虹色の花を咲かせた花田さん


花田さんはとても幸福です

だって 誰よりも美しい花びらを持っているのだから


でも おかしいな

時々苦しみが発作のように迫り来る
演じよう、と決めたのは
他ならぬ自分だというのに





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