唇。

年明け前の12月。
忘年会の帰り。
貴方は結構酔っ払っていた。
友達が迎えに来るとの事で、解散。
その時、本田主任が「方向同じだから送って行け。」と一言。
あたしも一緒に待つ事になった。

暫く歩いて、あたしがこけ掛けた時、貴方の腕にしがみ付いてしまった。
貴方は酔っていたからなのか、謝って離れようとするあたしの手をそのまま引き止めて、歩き出した。
腕を組む…とまでは行かないかもだけど、それに近い状況でコンビニの光が少しだけ届く低いコンクリの塀に腰掛けた。
そのまま会話は続き、あたしも貴方も終始笑顔。
いつのまにか腰に回った腕。
思いのほか近い顔。


(こら…やばいか?)


思いつつ振り払えない。
その時、ヤン車の排気音。
二人ともハッとする。


「来た。」


二人とも腰を上げ、のらりくらりと車に近付く。
友達に、「この子も宜しく~。」と遠野さんが言えば、友達も快諾する。
助手席の後ろに乗り込めば、助手席に乗るだろうと思っていた遠野さんが、奥行けと手を払う。


「あ?お前も後ろ行くのかよ。」

「何で前じゃないんすか!」

「いーから行け!」


渋々移動。


「お願いしま~す。」

「あいよー。」


その後は、何故か素面のお友達と酔っ払いの遠野さんの下ネタ合戦。
爆笑の車内。
笑いも落ち着いたその時、手に何か触れる。
あたしと遠野さんの間には毛布がある。
ぎゅっと手を絡められる。
振り払えない。
そしてその状態でまた会話が始まり、うちの近所に着く。
するりと離れる手が寂しく感じた。
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