歌皇~うたのおうさま~
《1》
(……あー……。
 まーたやっちまったなぁ…………。)

 夜の公園。辺りに人の気配がないのを幸いに、オレはベンチに身体を投げ出して盛大にタメ息をつく。
 
 今夜。
 
 ほんのついさっき、バンドをクビになった。
 というか、オレも他のメンバーも、互いが互いを、今夜限りで見限った。
 
 別に、初めて経験する出来事でもない。
 
 奴らは演(や)りたいように演って、オレは唄いたいように唄った、その結果だ。
 
 別に、初めてのことじゃない。別に。
 
 いろんなヤツとバンドを組んでは別れ、組んでは別れして、高2の時から3年間唄ってきた。
 でも、どのバンドも半年と持たなかった。
 
 最初はいいんだよ、最初は。
 
 オレが唄うと、みんなが「いいじゃん!」って言ってくれて。オレも、他のメンバーが作る曲を「いいね~」って言って唄う。
 

 でも。

 
 唄えば唄うほど、必ず誰かが「何かが違う」と言い始める。
 そして何度かステージに立った後に、「やっぱ無理だ」と言うんだ。誰かが、必ず。
 お前の歌は違う、と。お前には合わせられない、と。

「……で、またか、とオレは一人でヘコむ、と」

 やさぐれた気持ちを夜の空気に吐き出す。一人、失笑。
 いいじゃん、もう。いつものことだし。また新しいメンバーを探せばいいじゃん。
 そうだよ。そう。

 ・・・・・・でも。

 こんなことに慣れちゃいけない、と判っていても、こう何度も経験すると、何だか全てが用意されていたシナリオ通りのような気さえしてくる。
 おまけに「またか」だなんて、自分にとっては一大事のはずなのに、どこか他人事のように感じていることに自己嫌悪。


 ホントに辞めちゃえばいいのか。


 ふいに、真面目にそんな思いが湧いてきた。
 歌なんて、この身体一つ。口を噤めばそれで終わりじゃん。
 今のバンド(ああ、もう「前の」か)は四ヶ月。ライブはたったの二回。その二回目にしてもうオレの歌は「違う」と言われた。
 そんな簡単に必要とされなくなるオレの存在。オレの歌。
 一応プロのヴォーカリスを目指したりしてたけど。
 誰もオレの歌を認めてくれないなら。
 辞めりゃいいか、そんなもん。
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