相合傘

優奈は俺の姿を見るなり、駆け寄ってきて俺の影に隠れた。

「嫌だって言ってるのに、アイツ私をどこかに連れて行こうとしてきたのッ」
「何だよ、ずっとそいつの傍にいたけど…、そいつがお持ち帰りすんの?」
「なわけねぇだろ。お前、優奈を無理矢理連れ去ろうとしたのか?」
「いいだろ、別に。ああいう場に来ているという事はそういう事なんだろうし」
「ソレ、勝手な解釈よ!」

するとヒロヤくんは俺の後ろに隠れている優奈に手を伸ばした。

「ほら、来い」
「っ、痛ッ!」

俺は咄嗟にヒロヤくんの手に手を掛けて、ぐっと力を入れた。
鋭い目付きで睨んでくるその目。
とにかく優奈を守らなくちゃ。
それで頭がいっぱいで、この時ばかりは『男性恐怖症』だって言う事を忘れた。

「邪魔だ、離せッ!」

逆に手を引っ張られて、俺はヒロヤくんの胸にぶつかった。

「…あ?何だ、お前」

懐に入ったところで、俺はやっと『男性恐怖症』というものの、恐怖を感じ出した。
…な、なんかヤバい?

「お前、男のくせに力なくね?はは、女っぽいのは見た目だけじゃねぇのか」

ドンッと体を押されて、俺はその場に倒れ込んだ。

「ッ!!」

その時、地面に落ちていた透明なガラスの破片で、左の掌を切ってしまった。
それを見たヒロヤくんは動揺することもなく、構わず俺に跨ってきた。
一気に体の隅から隅までに行き渡る恐怖。それは細胞の一つ一つを犯して、俺から自由を奪って…。
ヒロヤくんはそんな俺に、一撃を与えようと拳を振り上げた。

「止めてッ!!」

優奈の悲鳴に近い叫び声が響いた時、ガツンと聞こえる音。



……あ、あれ?痛くない?

倒れている俺の隣に、ドサリと横たわるヒロヤくん。

「だ、大丈夫!?」

そして、さっきまでソファーにダラリと寝ころんでいたジュンと、アキラくんの姿が目に入った。
< 58 / 92 >

この作品をシェア

pagetop