相合傘
“好き”と“嫌い”

これって運命…?




つい最近まで五月蝿かった蝉の声が
だんだんと遠くなってきた。

鮮やかな緑色だった木々の葉は
だんだんと青さを失い秋の色へと変わり始める。

吹いてもムワッとするだけの生温かい風は
いつの間にか涼しさを取り戻し
心地良く感じれる様になっていた。



「アキだねぇ~」
「…何か今、発音違わなかった?」
「気のせい気のせい♪」

組んでいる足を組み直して、アキはアイスコーヒーを一口。
俺はホットコーヒーを一口。

あれから俺たちは、本当に穏やかだった。

お互いが逆の性別だと分かったせいか、沈黙の10日間(?)の前より静かになった。
でも、それが寂しいと感じることはなかった。
アキは相変わらずお茶らけて俺をからかってばっかり。

…毎日毎朝毎晩、御飯作ってあげてるし。

でも、一緒に過ごす時間の中で俺は、どんどんアキに対しての疑問が溜まっていく。
ベランダから外を覗けば、



ほら…今日もいる。



「…あの黒スーツさん、今日も来てる」

ぼそりと呟けば、はぁ…とアキが溜め息を吐いた。
アキが『あいつ等に構うな』って言っていたから、バイトとか買い物の帰りにすれ違っても、お辞儀をするくらいで言葉は何にも交わしていない。

でも、気になるんだよね…。
どうしてアキを探しているのか。

だから、何度かその理由を訊こうとしたことがあるけど…

その度に運良くアキがアパートから出てきたり
後ろにいたり。

…なんか俺、アキに見張られてんのかな。
って、思ったり。



「…そんなに、気になる?」


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