冬うらら2

「すぐ、温めるから」

 にこにこ。

 午前2時だ。

 眠いに違いないのに、そんな様子は微塵も見せずに、ダイニングで夕食になる。

 本当は、職場には夜食の買い出し部隊がいるのだ。

 それに頼めば、もっと早い時間に夕食にありつくことが出来る。

 けれども、メイが用意している夕食を食べる覚悟で、彼は空腹のまま仕事をしてきた。

 昨日も、今日も。

 実際、いま空腹かと聞かれたら、首をひねるくらいだ。

 一番の峠を越えてしまって、その感覚が麻痺してしまっていた。

 しかし、用意してもらっているのだから、絶対に食べる。

 だから―― カイトは、食卓についたのだった。

 メイは、もう夕食は取ったというので、お茶だけを飲みながら。

 そんな彼女の目の前で、ガツガツと食事をする。

 焼き魚の骨にイライラしながら。

 誰かに見られながら、一人だけで食事をするというのは落ち着かない。

 大口を開けて、自分一人がみっともない食事風景をさらしているような気がするからだ。

 かといって、いきなりお上品を装えなかった。

 メイの前では、お手もお座りもする犬だとは、思われたくなかったのである。

 勿論、彼女がそんなことを考えるはずがない。

 なのに、カイトは盗聴器や隠しカメラでもあるかのような緊張感を、崩せないままだったのだ。

 いまにも、その辺からソウマやハルコが、微笑みながら現れそうだったのである。

 被害妄想も甚だしかった。

「何か…しゃべれ」

 一人、食べ続けるのに耐えられず、彼はぼそっと言った。

 自分が口を食べるために使うなら、メイはしゃべるために使えばいいのだ。

 何しろ、無駄なおしゃべりというものを、彼らはほとんどしていないのである。

 だから、彼女がどういう考えを持っているとか、いままでどんな生活をしてきたのかなど、態度や反応から探るので精一杯だった。

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