冬うらら2

 突き出した左手で、まず白いケースを彼女に渡す。

 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに受け取って、彼女はそっとケースを開けた。

 そのすべての動作の中に、彼女の左手が登場するのだ。

 部屋のあかりに、きらきら輝いて見える銀色。

 似合うとか似合わないというよりも、それが自分の妻であるという、外部への象徴であることの方が、彼の意識を拘束していた。

 そんな視線にも気づかずに、メイはついに中から指輪を取り出して、ケースを空っぽにしてしまったのだ。

 その空の方を、ベッドの上に置く。

 彼女の手はあまり大きくはないので、ケースを持ったままでははめることが出来ないのだろう。

 それだけ、指輪をはめるという行為に集中されそうで、カイトを更に落ち着かなくさせた。

 キラキラの左手が、彼の手に触れてきた。

 いままさに、カイトの薬指を狙おうとしているのだ。

 メイの右手が、慎重に輪っかを持って近づいてくる。

 そのイヤな緊張感に、彼の身体は固くなった。

 何しろ、人に指輪をはめてもらうなんてこれが初めてなのだ―― 第一、指輪自体はめるのは、これが初めてだった。

 何で、オレが指輪なんざ。

 それは、アクセサリーで。

 それは、チャラチャラしたもので。

 それは、軟弱の証で。

 カイトの中で、これまで指輪に対して積み上げてきた考え方が、彼に現状を拒ませようとするのだ。

 そっ。

 薬指の両側に、金属やメイの指の温かさが触れる。

 それは、カイトをゾクッとさせた。

 逆なでられるような感触だ。

 途中まではすんなり。

 そうして、さっきの彼女の時と同じように、あとちょっとというところで、一回止まる。

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