冬うらら2

「え?」

 足を浮かすように持ち上げて、彼は―― 流しの横に座らせた。

 彼女の足が、ぷらんとぶらさがってしまう高さ。

「座ってろ」

 流しの上のメイに、間近から釘を刺す。

 このまま、次から次へと激突されてはたまらなかったのだ。

 家具とか物に対しての心配など、一切していない。

 しているのは、彼女の身体の方だ。

 いまは、大したことは起きていないが、何かあったらどうするのか。

 今度、上から降ってくるのは、ボウルではなく包丁かもしれないのだ。

 そんな想像をするだけで、彼の心臓は縮み上がる。

 飢えたライオンの檻の中に、カイト一人で放り込まれた方が、よっぽどマシだった。

「え、でも!」

 降りようとする身体を、押しとどめる。

「座ってろ」

 今度は、もう少し強い口調で言った。

 その気配に押されたのか、彼女はようやく動きを止めたのだ。

 ガラン、ガラン。

 カイトは、大中小のボウルを拾い上げ、そのまま全部重ねて上に置く。

 フライパンも。

 洗うとか、系統だてるとか、元あった場所に戻すとか、そういうことまで気が回らなかった。

 とりあえず、上の方にあげていればいいと思ったのだ。

 そして、すぐ近くにあったホウキとチリトリを掴むと、皿の片づけに向かう。

「カイト……」

 シューンと。

 すっかり、しょげてしまったメイが、まるで懇願するように彼を呼んだ。

 何で。そんな子犬のように、不安そうな顔をするのか。

「いい」

 気にするなと言いたかったのだが、彼の口はそこまで動かなかった。

 メイを流しの横に置いたまま、カイトはさっさと破片を片づけた。

 そして、全部が終わって。

 改めて、流しのところに帰ってくる。
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