冬うらら2

「遅刻やー!!!」

 そんなものは、新幹線に乗る前から分かりきっていた。

 物理的に、間に合わない時間だったのだ。

 鋼南電気も納期前なら、彼―― タロウが経営する、「WANTED CORPORATION」も、本当に今朝方まで、納期というアクマに追い回されていたのである。

 アミューズメント系の会社でありながら、ゲームソフトにも手を染めている、西部地方に本社のある企業だ。

 鋼南電気とは、協力関係にあった。

「WANTED CORPORATION」・・・長いので、略して「WAN-CO」(ワンコ)と呼ばれることもあるが、ワンコで作られたソフトは、KO-NANのパッケージで販売されている。

 ネームバリューのあるKO-NANの名前があれば、ワンコが単独で販売するよりも、遙かに売れ行きがいいのだ。

 おまけに、バカ高いCM料もタダである。

 元々、アミューズメント系に力を入れていたので、KO-NANの協力会社という立場を利用して、ゲームソフト業界のノウハウを吸収し、ファンを増やしつつ、最終的には完全自社タイトルで独立して販売に持ち込む方向で、現在経営を進めていた。

 その大事なお得意さんの社長が、結婚式を挙げるのだ。

 招待状を受け取ったタロウは、日付に青ざめた。

 納期直後だったからだ。

 しかし、立場上、絶対に行かなければならなかった。

 眠かろうがつらかろうが、這ってでも――

 仕事が終わった時間で考えれば、始発前だったので式には十分間に合うはずだった。

 不幸は、そこで起きた。

 10分くらいは眠れるなぁ~

 そうして、彼は2時間寝コケてしまったのだ。
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