冬うらら2

 そんな言葉さえ、カイトは勇気をふりしぼったというのに。

 メイは、一瞬驚いた顔をした後、慌てたように両手を左右に振った。

「あっ、そんな、別に…私は」

 また。

 せっかく人が、忍耐を重ねて怒鳴りまで抑えているというのに、彼女はそれを台無しにしようとするのである。

 家事をしなくていい外食に出かけるのだから、素直に喜べばいいのだ。

 そうすれば、カイトだってもっと嬉しいのに。

「でも…でも、別に、カイトは外食じゃなくてもいいでしょう?」

 ソウマさんに言われても、気にしないで。

 彼がイラついたオーラでも発してしまったのだろうか。

 彼女は、小さくなりながらも、そう主張した。

 あん?

 カイトは、片方の眉を思い切り引き上げた。

 また、うまく気持ちと言葉が、噛み合っていない気がしたのだ。

 どうやら、彼女は今夜の外食が人に言われたことから生まれた、義務感か何かだと思っているらしい。

 確かに、ソウマに言われなければ今夜、外食にしようなんて思いつきもしなかっただろう。

 そう。

 とことん、思いつきもしない男なのだ。

 彼女を家事から少しでも解放してやりたいと本気で思っているなら、思いついてもいいはずの答えなのに、ちっともカイトはそれをつかめなかったのである。

 義務感なんかじゃない。

 そうしたかっただけだ。

 そして、カイトは短気モノだった。

 そうしたいと思ったら、今すぐ―― とつながっただけなのである。

 何とかその気持ちを、言葉にまとめようと努力していたのに、メイの方が先に話を切り出してしまった。

「それに…結婚式も……」

 何だと?

 ここで、式の話題が蒸し返されるとは思っていなかったカイトは、意識の切り替えをうまくできなかった。

 ただ、彼女をじっと見つめてしまう。

「本当は…イヤでしょう?」

 ぱっと見つめてきた茶色い目は。

 すごく不安そうだった。
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