冬うらら2

「あぁ…それきり君は、鏡の国でも旅して、ようやくその冒険から帰ってきた、とでも言いたいんだね。ネギと生き別れたまま…随分と、詩人だな」

 おかしくてたまらない。

 トウセイという男は、バカ笑いしそうなタイプには見えなかった。

 それを考えると、いまの笑いでも十分過ぎるほどおかしくてしょうがないのだろう。

 ハルコには、計り知れない相手だった。

 一体、今の話の何がおもしろかったのか―― 確かに、ちょっと要領を得ない話で、深く聞きたくはなるが。

「随分面白い話をどうも……それじゃあ意地悪しないでドレスを、と言いたいところだけど、生憎僕は、魔法使いじゃない。シンデレラのドレスは、君が取り置き期間を破ったその日に、ゴミ箱の中さ」

 トウセイは指先を空で踊らせて、指揮者のような柔らかい動きで、『END』の文字をつづった。

 はいさようなら、とでも言いたかったのだろう。

 そんな場面に。

「あの、トウセイ先生……」

 言いにくそうに、マヌカンの一人が声をかけてきた。

 そして、ついにメイが焦がれたというドレスを手に入れることが出来たのだ。

 ゴミ箱のコヤシにするには、余りに勿体ないと思ってくれた人間がいたのである。

 彼女が機転を効かせてくれなければ、ドレスはいまごろ本物のシンデレラ(灰かぶり)―― いや、灰そのものだっただろう。

 これが、今日のドレス物語の全て。

 ハルコが分かったことと言えば、カイトとトウセイの相性は最悪で、もしも彼にドレスをお願いしようものなら、修羅場を見ることは間違いないだろうということだった。


 別を当たりましょう。
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