生徒会長様の、モテる法則



「あ、撫子」


私が頑なに撫子と呼び続けている為、もういちいち突っ込まなくなった彼女はため息をついてハルの席に座った。



「本家は京都。茶道の世界では有名な家よ。見て解る通りかなりの女好き、要様が硬派なら彼は正反対の軟派な性格ね。」



おおお…、なんかよく解んないけど家は金持ちそうだな。
でも、“要様命”の彼女が何故そんなことを知っているのだろうか。


「私、軟派な人嫌いだから。イヤでも目に入るのよ」



ああ、さいですか。



「本当かは解らないけど、“彼のテクニックは108式まである”とか“学校の女子では飽きたらず保険医に手を出した”とか、色々噂があるわ。でも本人はかなり剽軽【ひょうきん】だから男友達も多いし、女友達も結構居るみたいね」



108!!
煩悩!!!



「酒々井ちゃんすごいねー!」


「まぁ、私は要様一筋ですけどね」


ようやく回復したハルの言葉に、撫子は自慢気に鼻を鳴らした。
火のない所に煙は立たないというくらいだし、本人と話した雰囲気だと女好き、というのは明確だ。



「冬真に助けられてなかったら、面倒な事になっていたかもしれないですね」




私は、久遠寺くんの言葉に適当な返事をするともう一度、本を読んでいるであろうヤツの後頭部を見た。

やっぱり、お礼、言わないと。



例えヤツが、ただ騒いでいる私達が邪魔で声を掛けたとしても。


私は今度こそ、椅子を引き要冬真の元へ向かう。
本に影が出来て顔を上げたヤツは、思い出したように眉を潜めた。


その目に、何故か息が止まるほどの衝撃を覚え、先程顔も合わせてくれなかったヤツが私を見てくれた事に喜ぶ自分が居る。




――…私、オカシイ





言おうとした言葉が全てぶっ飛んだ。
要冬真の瞳に、高ぶる私の内側に戸惑って。





「私…ファーストキスは好きな人とって決めてるからあれはキスじゃない!噛まれただけだ!」




あれ?




眉間にシワを寄せて言葉の意味を探すヤツの表情に我に返り。

「な、なんでもない!」

私は逃げ出した。



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