生徒会長様の、モテる法則

6-6 鬼ごっこ




「ごめんね、付き合わせちゃって」


午後、私はネガを返して貰うべく第七ホールへ向かっていた。
一人では不安だったので、何気に彩賀さんを誘って。
彼女の父は、午後から稽古があるということで帰ったそうだ。
ラッキー。



「いえ!私も誘っていただけて嬉しいですわ!なんてったって初デートですもの」


ポポポと頬を赤らめる彩賀さんはチャイナ服と相成って何だか色気があるが、残念ながら同性の私はときめくわけでもない。

結構な確率で、すれ違う人は一度彼女を振り返る。


プロポーションも容姿を人より上を行っているので、当たり前と言えば当たり前なのだが。


「鈴夏さんは、ご両親はお呼びになりませんでしたの?」



声を掛けてきた一般客の男にチラシを渡し、軽くあしらいながら彩賀さんは数回まばたきした。


長い睫毛が揺れる。


「あー、親父は自営業で忙しいから。それに呼んだら確実スーツで乗り込んでくる」



気合いを入れまくって空回りするタイプの親父の姿は、容易に想像出来る。
来たら来たで、とりあえず色んな人間にやたらフレンドリーに振る舞ってうざったいだけだ、あの、ラーメン屋のノリで。


さらに葵と数々の思い出話を蒸し返されちゃあ堪らない。



「お母様もお忙しいんですの?」



『俺は、お前のせいで鈴実が死んだなんて思ってないよ。これっぽっちも』




「母さんは――…」



時々、自分で自分を傷付けたくなる事がある。
静かに置かれた“本当”も、言えば気を使わせる事くらい分かっていた。
それでも言わずにいられないのは、人の命を奪ってのうのうと生きる自分への罰。


「死んじゃっていないんだ」




彩賀さんの表情が、少しだけ歪んだのが分かった。



「ごめんなさい、私変な事…」

「いや!私が生まれてすぐ死んじゃったから母さんの記憶は全然ないんだ、物心つくころには親父だけだったし」





誤魔化すように明るい声で、笑いかけると彩賀さんは安心したような表情を見せる。

見えてきた第七ホールを指差して、励ますように彼女の手を引いた。

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