それでもわたしは生きている
序章
オジサンの前の奥さんは身体が弱く、子供は産めなかったらしい。
そして亡くなったそうだ。
オジサンは優しかった。
でも私は1度も
「お父さん」
とは呼ばなかった。
私が小学校の高学年になる頃、お酒を呑んだオジサンと度々ケンカをするようになった。
よく蹴られた。
時には包丁も突き付けられ、そんな時は夜の街へ逃げ出した。
幸い、朝の早いオジサンは10時には眠りにつく。
10時まで時間を潰せばいい。
だけど、小学生の女の子にとって、夜の街で数時間1人で過ごす事は楽ではなかった。
どっちを向いても暗闇で、真っ暗な道の向こうから、何か得体の知れないモノが現れるのではないかと、本気で変な汗をかいていた。
駅前のゲームセンターを思い出した。
あそこに行けば明るい!
ただそれだけを考えて走った!
プリクラもUFOキャッチャーもまだ生まれていない。
20円で遊べるコインゲーム。
50円で夢中になれるインベーダーゲーム。
ネクタイをした店員に、小学生だからと追い出される法律もまだ生まれていない。
愛想の悪いオッサンがカウンターにいるだけだ。