悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
ニバスが仕える、超絶美形の魔王は元人間らしく、わけあって悪魔として生まれ変わり、その後、人間界で輪廻転生を繰り返すマドンナ・リリーを追うことに人生を賭けていた。

恋にかまけて仕事を疎かにするようなタイプではなかったが、マドンナ・リリーが人間界に現れたその瞬くような時間だけは、熱に浮かされているようにも見えた。

いつも、女性であるわけではなく。
まして、いつも「リリー」という名で生まれてくるわけでもないのだが。

前回、マドンナ・リリーが生まれ変わったのはイタリア人で、偶然にもその名を「リリー」と言った。

人間界の生物には魔界の固有名詞は聞き取れないというルールがあるらしく、魔王はいつも相手の国籍に合わせて自分の名を変えて名乗っていた。
前回は、確か、キリストを意味するイタリア人の名、サルヴァートレと名乗っていた。
悪魔が口にする名としてはいささか分不相応でありそうだが、そういう瑣末なことを気にするような小さな人物ではないのだから仕方が無い。


そのリリーに、ニバスが初めて逢った時。
そこが教会だったからなのか、どうか。

リリーは彼を見てにこりと微笑み、
「お会いできて光栄です、ジュノー」
と言ったのだ。……恐らく。

もっとも、イタリア語に馴染みの薄いニバスにしてみれば、それが女神Giunoneを指すのか、単にその時の月、giugno(6月)を現していたのか。
そもそも「お会いできて光栄です」といわれたのが真実かどうかさえ怪しいのだが。

「ええ」

魔王様にリリーのことを思い出させて申し訳なかったかしらと思いながら、丁重に頷く。

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