悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
思えば、出会ってからずっと。
流されるかのように潤と楽しく過ごしていた。

目が合えば笑いかけてくれるし、口を開けば甘いトーンの優しい声が零れてくる。
その瞳は、見るたびに心まで蕩けそうになる蜜の色に染まっているし、指先が触れるたび、親密度は無条件に増幅していくような、気がしていた。

でも。
その実、私は潤のことを何も知らない。

ただ、柔らかくふわふわした何かに流されるように、楽しい雰囲気に呑まれていただけで。

潤の部屋の前で、その扉を開けることにひどく戸惑いを感じる自分が居た。


結局のところ、私は。
彼のことなんて、何も知らないまま、今、ここに立っている。

あんなに満たされていたはずの心が、急に空虚さに支配されていく。



扉の重さが、変わる日が来るなんて。


想像さえしたことがなかったことに、今初めて気がついた。
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