悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
青年は見事な角度で右腕を上げた。

「あのっ。
 あちらの方はまだ解決してないと思うのですが」

潤が躊躇いがちに唇を開く。

クツクツと、青年は喉を鳴らして笑うと、存外に優しさが伺えるような視線を潤に向ける。

「それはお前の勘違いだ。
 平気だよ。それから、彼女の記憶は消しておいた。
 興奮のために気絶したことになっている。
 ……そちらの子のことは、お前に一任する」

そちら、というのは。
私のこと、よね?

思わず唾をごくりと飲み込む。

きらん、と。
針を思わせる鋭さと、宝石を思わせる輝きを持って、青年の瞳が一瞬、黄金に光ったように見えた。

「くれぐれも。
 未来に支障の無いように」

「御意にございます」

丁寧にお辞儀をする潤は、遠い世界の貴公子にしか見えないような丁寧で優雅な物腰で私の胸に疎外感が過ぎる。

「では」

パチン、と。
青年はためらうことなく指を鳴らす。

小さな竜巻を思わせるような風が突然吹き、思わず目を閉じた直後。


……この世のものとは思えない、凄まじい美しさを携えている青年の姿は消え果ていた。
< 53 / 88 >

この作品をシェア

pagetop