魔王さま100分の2

アイオネは、その声にくすぐられないように努めながら、手にした髪に串を入れた。

ひと梳きで、
魔王さまの首元から腰まで、串はなめらかに流れて黒髪に輝きの波をつくる。

途中でかかったり、絡まったりすることは一瞬もない。

アイオネが、再び魔王さまの首元から串を下ろすと、やはり同じく腰まで静かに波ができた。

波でひかる綺麗な黒。
串から伝わる微かで穏やかな音。

手で直に感じる従順な髪の質。
どれも自分の髪では再現できない美しさと心地よさ。

アイオネは、自分の思うように集散する髪を自由にできる喜びに安らぐ。

魔王さまが、
アイオネが来るたびにハシゴに登るのを楽しむように、

アイオネは、
魔王さまに会うたびに髪を梳くが楽しみ。

綺麗で長い髪は、女貴族の憧れなのだ。

< 71 / 582 >

この作品をシェア

pagetop