泡姫物語
「うん。僕みたいな男と一緒じゃ嫌かな」

「いいえ!その逆です!すごく嬉しいです!」

熱くなった私は藤田さんの手をぎゅっと握って彼の言葉を強く否定した。

「よかった。僕もあんまり調子に乗りすぎちゃうと嫌われちゃうんじゃないかと不安になってしまうけど、まだ今のところいいお客さんでいられてるみたいだね」

「もちろんですよ。藤田さんのことを嫌いになるどころか、来てくれるのが楽しみなんですから」

営業でこんなセリフを言うことはあるけど、本音で言ったのは初めてだった。
きっと藤田さんはお客さんとして言って貰っていると思っているだろうけど、私にしては爆弾発言のつもりでいる。
言ったあとちょっとだけ赤面してしまった。
お部屋が薄暗くてよかった。

「今度の土曜日に隅田川で花火大会があるよね。よかったら一緒に見に行きたいと思って、今日はそのお誘いをしようと思って来たんだ。メールより、ちゃんと直接お誘いしたかったんだ。どうかな」

「ありがとうございます。私でよかったら是非ご一緒させてください」

ふたりで花火大会なんて素敵!本当の恋人同士みたい。しかも藤田さんのほうから誘ってくれるなんて。

「じゃあ決まりだね。楽しみだな。帰りにお店のほうにも貸切の予約をしておかないとね」

……え?どういうこと?それはお客様として私を誘っただけなの?

ソープには大体どこのお店でも貸切や外出といって女の子の出勤時間全部の料金を支払い、店外デートが出来るコースがあり、この場合は危険も伴うため女の子の拒否権もある。
女の子と店長の許可が出たらGPS付きの外出用携帯電話を持たされて終了時間まで好きな場所へ行ける。

普通に考えたら藤田さんもそう考えて私を誘ったのだろうけど、私はやるせない複雑な気分だ。
私はお金で買われた。
藤田さんのしたことのほうが正しくて、私が望むことはお店の規則違反に値する。
私が規則違反したことがバレたら即刻クビだ。

今は藤田さんもお客様として私を好きなだけで、そういう形になってしまうのは仕方ないことなんだ。
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