Pride
病院の真っ白な空間の中でただ一ヶ所だけ白くない部分、由樹は窓の外に広がる青空をただボンヤリ眺めている。

窓の外には鳥が飛んでいた。

どこまでも、自由に飛んで行ける鳥。

羽根があったら何もかも捨てて飛んで行くのに。
そんな夢見るいたいけな少女が考えそうなことを、17歳にもなって考えている自分が可笑しくなった。



「・・・・き、ほら由樹!」

ふいに耳元で聞こえた大きな声にビックリして、由樹は我に返る。

「ちょっと、先生の説明聞いてた?自分のことなのよ?」

母親が困ったように呆れたようにため息をついたのを見て、先生はもう一度説明を始めた。

由樹は余命1年余りと診断された病人だった。

筋肉が硬直し次第に身体を動かすことが困難になり、その硬直が内臓や呼吸器に及び死に至るらしい・・・と、何となく漠然としたことしか理解していなかった。

まるで他人事のように、自分とは無関係な遠いところで起こっている出来事のように、何も頭に入ってこなかった。

現在でも効果的な治療法や予防策などは見つかっていない。

誰でも、突然、何の前ぶれもなしに発病する危険性があるらしいことから、ストレスや食生活が原因ではないかと言われている。

「ただ・・・死を免れる方法はあるのです」

今から数百年前は、義手や義足といった自分の手足に代わるものがあったものの、それは木やプラスチックなどで造られた、いかにも“造りモノ”といった感じだったと聞いている。

現在では、触れただけではそれだとわからないほどリアルに造ることが可能になった。
見た目やさわり心地だけでなく、リアルな動作も可能である。

由樹が助かる方法とは、義体・・・すなわち造りものの身体に交換することである。

「どうでしょう、お考えいただけましたか?」

義体にすれば助かる、と言われたからといって、はいそうですかと軽く承諾できるほどの金額ではない。

はっきり言って世間では“金持ちの道楽”と皮肉られているくらい高価なものになる。

しかし由樹は運がいいことに、由樹の家は、その道楽が買えるほどの金持ちだった。

『死ぬか』『生きるか』と選択肢があったなら、誰だって迷わず『生きる』を選びたい。
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