秘密~「ひみつ」のこと
あたしの家、
木造のボロアパート、
1DK。

でもトイレ、風呂付で5万は捨てがたかった。

狭いながらも楽しい我が家、
って程でもないけどさ。

あたしの唯一の居場所。

彼と二人、
タクシーに揺られて数十分、
車酔いも加わって、
気分は最悪。

階段上って、
部屋に入って、
トイレに駆け込んで、
吐いた。

その後、記憶がない。

気がついたら、
隣に翔一さんがいた。

って言っても、
あたしを布団に寝かして、
自分は服着たまま、
箪笥にもたれて寝てた。

優しい人、なんだ…

時計は4時をさしていた。

家に帰らなくて、
大丈夫だったのかな?

久しぶりに見る、
男の寝顔。

額に落ちた前髪に触れようと手をのばした。

「う~ん、目が覚めた?」

翔一さんが、
突然目を開けた。

あたし、慌てて手を引っ込めた。

「気、失っちゃったから、心配でさ。アパート、鍵かけないで帰るのも、なんか無用心でしょ?気分はどう?」

目こすりながらも、
この人寝起きいいんだ、
言ってることまともだよ。

「送ってもらって、その上、こんな時間まで…」

あたし、なんか口ごもる…

「大丈夫、何もしてないよ」

笑った顔には、
薄っすらと、
無精ヒゲが伸びている。

ヒゲ、濃いんだ…

何気ない、
優しさ。

胸の奥から、
突き上げてくる、
寂しさ。

「抱いても良かったのに…」

「何言ってるんだ、もっと自分を大切にしなくちゃ」

あたし、そんな大切にされる女じゃないよ…

「抱いて欲しい…あたし、寂しいよ…」

何故か、涙がこぼれた。

昨日までは、
ちゃんと一人で
立ってられたのに…

寂しさを
埋めるのに
男を求めるのは止める、
って誓ったのに…

心の封印が、
溶けちゃったよ…

泣き続けるあたしを、
翔一さんは、
優しく抱きしめてくれた。

だた、
優しく
抱きしめてくれたんだ…





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