妹なんていらない
会場の声。


舞台の明かり。


残暑の悶々とした熱気。



結城が纏っていた衣装を身につけ、舞踏会用の仮面をつける。


現時点では、会場の観客にはロミオが入れ替わっていることに気づいている人はあまりいないだろう。


服もそうだが、結城と俺は体格が似ていた。


身長はほんの少し俺が高いだけで、あと違いがあるとすれば結城の方が焼けている、ということだ。


髪型は…まあ、気にしないでおこう。




美波はすでに舞台にいた。


西洋風のドレスに身を包んだ美波。


髪型はいつもと違い、後ろでまとめられていた。


さらに、うっすらと唇には桜色の口紅がひかれ、肌もいつもよりも白く、眩しかった。



思わず息を呑む。


こんなときにあれだが、綺麗、ふいにそう思ってしまった。



目の前に立っているのは嫌でも毎日顔を合わせる、見慣れた妹だ。


なのに、何でこんなにも俺は緊張しているんだ。



雑念を振り払うように息をつく。


そうだ。

ここは舞台の上で、そして今の美波はジュリエットで、俺は………



ゆっくりと美波に近づく。



――俺は、ロミオだ。
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