water song(みずうた)

◇現(ウツツ)と幻(ユメ)

『守りたいと、"今度こそ"と思ったんじゃないのか?』

その声は、心の底から。

響き、俺を苛む。

ハッと起き上がる、砂の上。

傍らには、ここ最近で馴染んだ気配が、ない。

当然だ。

自分が置いて来たのだから。

カッとなって、我を忘れた。

そして、彼女を置き去りに。

奥底で、燻っていた火種が、あの男を見て、はじけた。

それは、赤く、村を焼く色。

それは、紅く、ばぁさまを染めた色。

「ふぅう。」

ゆっくりと、押し出す息。

自分を、落ち着かせる為。

火種を、収める為に。

起き上がり、小さくなっていた炎に、砂をかけて消す。

月明かりに照らされた、拳をギュッと握る。

手を月に翳すと、手の甲に満遍なく生えた体毛が、月明かりをキラキラと反射する。

『太陽の匂い』

記憶から、蘇った声。

試しに、手の甲の匂いを嗅いでみる。

(そんな匂いは、しない)

代わりに、血臭がした気がして、腕を下ろす。

常に自分を取り巻いていた匂い。

彼女と居た時は、感じなかった事に、ふと気付く。

(俺は、何を夢見ていたのか。)

綺麗で、優しい自分。

それは多分、彼女の見せた幻。
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