water song(みずうた)
トン、トン、トン。

ノックの音に、花が生けられたツボの前に居た私は、ハッと振り返った。

「失礼します」

入って来たのは、私に敗北感を植え付けた侍女さん。

「あ!」

入って来て、私を一瞥するなり、悲鳴を上げた。

(な、何かしたかな?)

まだ、何もしてないはず…。

私は彼女の動向をうかがう。

「何で裸足なんですか!?」

ああ、そういえばそうだっけ…。

「歩きにくい」

素直に答える。

しかし、この答えは気に入ってくれなかったらしい。

彼女の顔が、みるみる内に険しくなる。

避難命令が、先程から頭の中で発令されているが、私は動く事が出来ない。

「歩きにくいからといって、淑女が裸足になるものでありません!」

(うわ、でたよ“淑女”…)

屈辱の敗北を喫した闘いの間、彼女は、淑女はどうあるべきか、訥々(トツトツ)と語っていた。

よほど淑女に対する思い入れが強いらしい。

思いは、個人の自由だし、口出しすべきではないとは感じる。

だが…。

(私にそれを求めないで欲しい。)

彼女は溜め息をついた。

「まぁ、良いです。それより、街長がお待ちですので、靴をお履きになって此方へどうぞ」
< 98 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop