教師失格☆恋事情


「校外指導、お疲れ様です。」


彼女の嫌味のない言葉に、苦笑いしながらタバコを揉み消した。



「あ、もったいないですよ、まだ半分くらい残ってるのに。」



「生徒の前で喫煙はよくないだろ。」




…佐山優梨


成績優秀で運動神経もいい。

クラスの皆に頼りにされている女の子。


あれで愛嬌があったら、もう言うことなしだとかなんとか、男子生徒が言っていたのを思い出した。


まぁ俺もそう思わなくもない。



「そう言えば先生、今日まででしたよね?課題提出。」


「あーっ!やばっ」


すっかり忘れてた…


いつもテスト前にやっている抜き打ち課題。

今日までに提出してもらわないと採点がテストまでに間に合わない。


回収するのすっかり忘れてた…。


「ふふっ、生徒、ちょっと待ってて…」


落ち込む俺を少し笑って佐山が奧へと入っていく。




…気持ちは嬉しいが、佐山一人の課題を回収出来た所でどうしようもない。


「佐山、いいよ、課題…」


「…いいんですか?…本当に?」


「ああ、…っ!?」


戻ろうとした佐山の腕をとっさに掴んだ。


佐山の手には、厚い紙の束。


それが何かなんて聞くまでもなく、佐山がにっこり笑って言った。


「集めるの結構大変だったんですよ?全員分。」



「…助かった。…サンキュー」


「どういたしまして」


「……、」



…最近この笑顔を見ると体が熱くなる。




佐山は、まったくもって教師らしくない俺に、いつもさりげない助け船を出してくれる。


昼休みに我先にと押し掛けてくる女子達とは違う。


欲しいときに欲しい言葉をかけてくれる。


しっかりものの学級委員


それを鼻にかけるでもない彼女を、いつからか目で追うようになっていた。



…そう


…それは


教師にあるまじき感情だ。


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