恋文~指輪が紡ぐ物語~
――キーンコーンカーンコーン
あっという間に、帰りのHRまで終わってしまった。
志穂は何度も花乃に、松岡の話をしようとしてやめた。何を伝えたらいいのか分からない。何も知らない自分が口を出すのはどうなんだろう?そう思った。
だけど、やっぱり、花乃には傷ついてほしくない。
松岡が独り言のようにポツリと呟いた言葉が気になる。
――会いたくなんか、なかった。
誰が聞いたって、花乃にだろう。
志穂には、花乃が松岡に対して好意を持っているように感じる。その好意がどういったものかは、まだ分からない。だけど、だからこそ、松岡の言葉は、どういったものだか知りたかった。
そんな志穂の考えを知らない花乃は、HRが終わった瞬間に教室を飛び出していった。
――ドクン、ドクン
一歩、また一歩、屋上に近づくにつれて鼓動が大きくなっていくような気がする。頭と感情が一致しない。
花乃は不思議な気持ちを感じながら、階段を駆け上る。
この先に、彼がいる。
そう思うと、何とも言えない感情が湧きあがってくる。それは、花乃が感じたこともない感情。
興奮はしている。だけど、それだけじゃない。嬉しいのかも、怖いのかも分からない。
ただ、早く。早く行かなきゃ、という思いに急かされるまま足が動いている。
階段の一番上にたどり着いた。外へ行くためのドアの前で、乱れた呼吸を僅かに整えて、ノブに手をかける。
ドアを開けた先。
真っ青な空が広がっていた。風が吹き抜けた。
一歩、足を踏み出す。
屋上には初めて来た。校舎の中と違い、当然だが開放感がある。
視線を左に移すと、見慣れた人影が見えた。
花乃は、目をつぶって息を吸い込んで、目を開けた。
「こうちゃんっ」
その声に振り向いた松岡は、哀しそうに答えた。
「残念。俺は、浩介じゃない」