三澤斗春と優しい殺意。
三澤は淡々と語り出した。
「動機は知りませんが、薫さんは、あなたを殺そうとしています」
「ほぉ」
おばあさんは一つ声を上げた。
だけだった。
「……方法は簡単。毎回の食事に薬を入れる」
料理を作っているのは、薫であり薬を入れるタイミングはいくらでもある。
「問題は、その薬が風邪薬ということです」
「……風邪薬」
「風邪薬を毎日服用することで、風邪を予防することは確かにできるかもしれません。ただ、確実に免疫力が落ちていく」
三澤は一つ息を吐いた。
「そして、風邪の流行る時期に薬を混入するのをやめる」
風邪は毎年流行る。後は、弱った体に悪性の強い菌が入れば成功する。
おばあさんは何度か頷いた後、視線を窓の外にやった。
「……風邪は万病の元とは、よく言ったものじゃな」
「……知っておられましたね」
「当たり前じゃよ。いくら筋肉が衰えようとも、味覚だけは衰えさせてはおらんよ。変なものが入っているのくらい、すぐに分かる」
おばあさんは口元を歪めて、笑った。
「それが何かは知らなかったが、な。これで、心の準備くらいはできる。ありがとう」
「薫さんに、やめさせる方法はいくらでも――」
「いや……」
おばあさんは、三澤の言葉をさえぎった。
「……あの子は、ただ私が風邪を引かないように、食事に風邪薬を少し混ぜる、いい子なんですよ」
「……そうか、それならよかった」
三澤は薄く笑って、席を立った。
「私の用事は終わりです。それでは、良い死に様を」
三澤は、深々と一礼をした。
「……お互いにな」
おばあさんはにっこりと優しく微笑んだ。