三澤斗春と優しい殺意。

「うぉ……、千歳……俺を置いて行け」

「三澤さん、ちょっと何してるんですか!歩いてくださいよ!」


遭難していた。


「へへっ、ざまぁねぇな……こんなことなら、食べとくんだったな、甘くて、冷たくて、優しい……バリバリくん」

「めちゃくちゃ安いアイスじゃないですか!そんな50円程度のシロモノに優しさなんて感じないですよ!」

「いや、安いって業者の優しさじゃねぇ?」

「……たぶん、原価10円くらいですよ」

「がはっ!騙されたのか?騙されたのか!もうダメだ。生きていけね」

「あーもぅ!置いて行きますからね、僕!……ちょっと、何してんですか!?足を持たないでくださいよ!」


ズルズルと三澤を引きずるながら、長倉はどうにか三澤を離そうとする。


「腹減ったよぉ〜」

「分かってますよ!だからって、ズボンの裾を持たないで下さい!脱げます!脱げますって!」

「静かにせぃ!」


一喝。


振り返った先、家のベランダからこちらを老婆が見下ろしていた。


「あ……」


はっ、として力を抜いた長倉。

ズボンは力に正直に従った。

ついでに、パンツも。


長倉の下腹部に、実に爽やかな風がすりぬけた。

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