女子高生夏希のイケメン観察記
「とりあえず助かったよ。
 明日からもこんなに忙しいのかなー。
 仕入れ、増やさなきゃだな。
 ついでに、店員も」

呟いた後、ゆるりと私に視線を向けた。

……っていうか、今、私がここにいるってこと、忘れてましたよね?

「あ、今日はありがとう。えーっと……」

その上、小首を傾げて私を見ているそのご様子では、私の名前もお忘れですね?

「千崎夏希です」

イケメンを見たら親切にしろ、という私の中の格言に従ってあっさり名前を告げる。

「そうそう。なっちゃん」

花束を作ったときに散らばった、葉っぱや茎を手際よく片付けながら、店長が続ける。

「高校生ってことは、今、夏休みだよね。
 うちで、バイトしない?」

……ついで、ってさっき言いませんでした?
確実に、今、一番手近にいる私ですませようとしてますよね?
採用にかかわる面倒ごとを、一気に片付けようとしているだけですよね?


一瞬、眉間にしわを寄せそうになる。


でも、まぁ。
ここで働いたらあの和装イケメンに出会えるかもしれないし。

なんて甘い予感が浮かんできた。

「いいですよ。時給、おいくらですか?」

一瞬、ぽかんとした顔で私を見る。それから、店長は強引に人当たりのよい笑みをその綺麗な顔に浮かべると質問にも答えずに、電話の受話器を掴みどこかに連絡をはじめてしまった。

……私のことは無視ですかー?
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