女子高生夏希のイケメン観察記
「お父さんこそ、とっととカレー、食べてよね。
お皿洗ってくれるならいいけど」

うちには現在、母親が居ない。

元々占い師をやっていた母は、何故か私が中学三年の夏、唐突に精神を患ってしまい、病気療養中なのだ。
最初は、若年性痴呆症も疑われていたのだが、現代の医学では説明がつかない奇病かもしれない、などと、医師は家族にとって酷な現実を、眉ひとつ動かすことなく淡々と告げたのだった。

だから、家の家事は基本私が受け持っている。

最初の頃は、分担、なんてこともやってみたのだけれど。
当時中一の弟が割った皿の枚数数知れず。
サラリーマンの父親が、駄目にしたブラの枚数数知れず。

……もう、いいです。
  私が全部やるから。
  その代わり、高校にだけは行かせてよね。どれだけ偏差値の低いところでも。
  それから、お母さんのお見舞いは二人で交互に行って来てよね!

という取引をして、勉強の時間を削り家事に充て、「お金さえ払えば入れる」と言われている三流高校に入学したのが去年の春のことだった。

「で、さ。
今のテレビに何が出てたわけ?」

背ばかり高くなってきた弟の秋人が、好奇心を剥き出しにした瞳で聞いてくる。

「ん?夏休みの宿題よ、宿題」

「ええー。
姉貴の通うバカ高にでも、宿題なんてあるのかよっ」

「秋人、それはいくらなんでも失礼だぞ」

パパが、裸で(もちろんパンツは履いているけど、テーブルに座ったら見えないじゃない?)カレーを貪りながら弟を諭している。
っつかさ、裸で人が作った食べ物を食べるのって、失礼にはあたらないのかしら?

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