封印せし記憶
公園


静菜は少年を公園まで連れてくると、芝の上に置かれたベンチに腰を下ろした。

「おい…」

少年は静菜を見下ろしながら呼んでみるものの、ふわふわと微笑んでいる静菜はそれが聞こえているのかいないのか。
丘の上にある桜の木を眺めるように少し視線を上げていて、少年を見ていない。

「っ…」

少年は少し苛立ちを覚えはしたものの諦めたように、静菜の隣に、空間を空けて腰を下ろした。

こんなふうにのどかな場所に身を置くのは少年にとって滅多にないことだった。
落ち着くような、落ち着かないようなそんな気分で辺りを見渡していた。


そうしてしばらく沈黙が続いたが、静菜が急に口を開いた。

「私、勉強は嫌いじゃないの」
「…はっ?」
「でも、学校はあんまり好きじゃない」
「……」
「あなた、名前はなんて言うの?」

4度目の質問。
しかし今度は、これまでの問い方とは明らかに違った。
少年をしっかりと見据え、子供に問うような雰囲気が一掃されていた。

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