堕天使の涙
10年
模範囚として刑期を早め、出所した私を誰も待ってはいなかった。

とりあえずと住んでいた家に立ち寄ったが、売り家になり、買い手もついていない状態
だった。

赤いペンキで無数の落書きが施されていた。

人殺し

恥知らず

出ていけ

死ね…



残された家族がどんな生活を送ったのかと思うと胸が締め付けられるように苦しくなっ
た。

全て私のせいで…。

せめて妻には事前に相談するべきだったのだろうか。

後悔はしないようにしようとは考えるものの、妻と息子、もっと言えば父、親戚、私に関わりのあった人間達の生活ににどれ程影響を与えてしまったか…。

私が罪を償ったなどと言っていいのだろうか?

家の前で呆然と立ち尽くす私の後ろを一団の家族が通り過ぎて行ったが、私は視線を合わせる事が出来なかったので、その家族が十年前に近所に住んでいた人達であったのかどうかは確認出来なかった…。

十年…。

長かったと言ってもおかしくないが、あっという間であったような気もしないではない。

刑務所の中で私は何も考えずに過ごしていた気がする。

妻は…四十歳、息子は…十九歳か。

もう息子は顔も判らないだろう、今胸のポケットに仕舞っている写真で笑っている九歳の頃顔しか浮かばない。

妻は…恐らく会えば分かるだろうと多少の自信があった。

しかし、彼女達の行き先は見当もつかなかった事もあり、またどの面を提げてという気持ちもあり、捜す事は諦める事にした。

そういえばあの子供はどうしているだろうか…?

私が父親を轢き殺した事により、彼の人生は大きく変わってしまっただろう。

今頃は恐らく二十歳前後といったところだろうが…。

出来る事なら彼に謝罪しに行きたいとは思うものの、勿論住所も何も分からない。


そして

…やはり合わせる顔が無い…。

結局私は逃げているのだろう、過去からも…未来からも…。

逃げ出しながらただ私は生きる事を選択した。

誰とも関わらず、誰を訪ねようともせずに。

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