堕天使の涙
発覚
死ぬ…?

今目の前にいるこの男が…?

まさか…。

頭の中でばらばらに散らばったパズルのピースが少しづつはまっていくような、見えない話が…一つに繋がり始めた、そういう感覚だった。

今、ここにいるこの二十歳程の青年は…。

「じゃあ…これは約束通り、しっかり五千万円入ってるから。」

重そうなボストンバッグがフェンスの向こうからこちらへ投げ入れられた。

大きな音を立て、形を変えたバッグを横目に、私は彼の次の言葉よりも先にと口を開いた…。

「君、名前は…?」

風が通り過ぎて行く音と、車が走り去る音以外は何も聞こえない。

静かに…時間が過ぎていく。

「名前は…?」

フェンスを掴み、顔をあて彼の全身を覗き込んだ。

「義之…なのか…?」

背中を向けていた彼がほんの少し視線をこちらに向けたように見える。

「どうして…こんな…。」

その後の言葉を続ける事が出来なかった。

これまでこの子がどれ程大変な生活をして来たかを考えると…、軽々しい言葉を今口にしてはいけない。

ぽつりと雨粒が耳に落ちた。

青年は先程から黙ったまま背を向けていた…。

次第に雨脚が強くなり、辺りは雨粒が地面を打つ音だけが響いていた。
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