青瓶奇譚
ぼくは
海辺に立っていた
入道雲がとてもまぶしくて
ぼくは波打ち際の
オープンカフェのテラスにいた
緑色の大きなパラソルの下で
ぼくは長い手紙を書いていた
それはきっと
かすみへのお別れの手紙だった
夢で会えていたころは
たぶん心が通じていたんだろう
離れていても
同じことを思っていたのだろう
でもぼくは
かすみの笑顔や
たった一度だけこの胸に感じた彼女の鼓動
そして髪の毛の匂いを
すべてここに封印して
フタをしようとしていた
もうかすみが
ぼくにつながることを
やめたから
かすみがぼくに言った別れの言葉は
「好きよ」
だった
だからぼくも
手紙の最後に
「好きだよ」
と書いた
ぼくは手紙をくるくると筒にして
青い瓶に入れてフタをした
そして青い瓶を
海に向かって投げた
思い切り遠くに行くように
この世の果ての
誰もいないところに行くように
力いっぱい投げた